top of page

地域から子育て条件奪う学校統廃合

1、北河内に見る学校統廃合と子育て世代の居住地選択

北河内における各市の公立小中学校の純増加数(マイナスは削減数)を5年間隔で示すと次のとおりです。(資料は、大阪府の学校基本統計による。)

​表1 北河内各市の学校統廃合の状況

 子育て世代は、この公立小中学校統廃合で、居住地を変えることを余儀なくされなかったでしょうか。

 子育て世代の居住地選択の動向を見るために、中学生までの子供の子育て世代を、25歳から39歳までと想定し、各市の2000年、2005年、2010年の25~29歳人口、30~34歳人口の、5年後の増加率(マイナスは減少率)を見たのが、次の表です。(資料は、国勢調査による。)

 この表のマーカーは、公立小中学校の純増減があった期間の増加率に黄色のマーカーを付し、統合が各5年の期首にあった場合は廃止年度の前の5年間の人口移動、期末にあったときは廃止年度の後の5年の人口移動にも反映するものとして、その5年間の増加率にピンクのマーカーを付しています。

 寝屋川市の2002~2005年の小学校2校廃止は2005年なので(2005)→2010年に、守口市の2006~2010の小学校廃止は2006年なので(2000)→2005年に、大東市の2011~2015年の小学校3校廃止のうち1校廃止は2011年なので(2005)→2010年にピンクのマーカーを付しています。

 これによれば、各市とも、黄色のマーカーを付した年、または、ピンクのマーカーを付した年に、子育て世代の人口減少が激しくなっており、学校廃止は子育て世代の市外流出の主たる原因であると考えられます。なお、1小学校区の子育て世代の人口の、市全域の子育て世代の人口に占める割合は、小学校が多い市町村ほど小さいので、表2では学校廃止による子育て世代の市外流出は、学校数が少ないほど大きく、学校数が多いほど小さく表現されることに注意してください。

 無論、市の特性によって、現在の居住者にとっての子育て環境の重要性は異なりますし、子育て世代が住居選択する場合は、子育てのしやすさだけでなく、通勤の便も条件となるでしょう。そこで、以下では、各市の特性とその変化を考察することで、子育て世代の転出を招く原因を、より明確にします。

​表2 北河内各市の子育て世代の市外への移動状況(社会増減状況)

2、若年人口(1~14歳)と合計特殊出生率にみる子育ての場として四条畷市

 図1は、北河内の各都市の若年人口比率の推移、図2は、合計特殊出生率の変化を見たものです。

 図1によれば、四条畷市と交野市で若年人口比率が明らかに高いことがわかります。これは、両市が住民に居住、子育ての地として選択されていることを示しています。

 従って、両市においては、子育て世代にとって、地域における学校の存在の、その地に居住する条件として持っている意味が、他の要素に紛れることなく純粋な形で現れます。

 そこで、表2によって、2007年に統廃合で1小学校が廃止された四条畷市での子育て世代への影響について検討します。

まず、市の人口は2000年~2005年に4%、2,005年~2010年に0%の増加、2010年~2015年に3%の減少となっています。しかし、25~29歳人口、30~34歳人口が5年後にどの程度増加したか(マイナスは減少)、つまりこの年齢層の純社会移動を見ると、25歳から29歳は、0%、-10%、-1%、30歳から34歳は、3%、-6%、2%となっています。

 学校統廃合が含まれる2005年→2010年の間にだけ、子育て世代の人口が急減しておりしかも、この間総人口にはほとんど変化がないので、この減少が子育て世代でのみ発生したことがわかります。

 従って、四条畷では、小学校を8校から7校に1/8減らしたことが、25歳から34歳までの人口を10%近くも減らし、これが、五年後の人口減少にも表れたといえるでしょう。

 では、四条畷市では、小学校廃止で子育て世代の流出が見られるのに、若年人口比率の水準の推移が交野市とあまり変わらないのはなぜでしょうか。これは、図2に見られるように、四条畷市の2000年から2010年にかけての合計特殊出生率が交野市など他市に比べて高かったことで説明できます。

 

 ところで、総人口が減少した期間と子育て世代が大幅に減少した期間がほぼ一致している、寝屋川市、守口市、大東市はどう考えるべきでしょうか。この場合、市内の就業機会の減少などに伴って総人口が減少する中で、子育て世代がより良い就業環境を求めて積極的に市外に移転した可能性が考えられます。 

 しかし、市内の就労機会が失われても、子育てに適していれば市外での就労も選択肢となるはずです。従って、市民の就労機会を奪う産業構造変化が生じた市においても、相対的に子育て世代の流出が高いのは、市が子供の数が減ったのに合わせて学校を統廃合して子育て世代の流出を加速した結果であると判断できます。

​図1 北河内各市の若年人口比率の推移

​図2 北河内各市の合計特殊出生率の推移

 図2は、北河内各市の合計特殊出生率を概算したものです。合計特殊出生率は、15歳から49歳までの女性の年齢ごとの1人当たり平均出産数を算出して合計したものです。従って、年齢構成による影響を受けない出生率です。

 しかし、出産希望を持つ女性が集まる地域ほど相対的に合計特殊出生率が高まるので、子育てしやすさは、合計特殊出生率にあらわれます。

 そこで、図2を見ると、四条畷市の合計特殊出生率は、2010年まで周辺市が極めて低い水準となった下で安定して相対的に高い水準を維持していました。ところが、2015年現在では、低迷する門真市を除けば、全体的に毅然が見られ、四条畷市は他市とあまり変わらない水準になっています。

 子育てには、子育てする経済的見通しを持てること、居住地が子育に必要なゆとりを持てる場所にあることが必要です。 

 従って、社会的な条件が厳しい時には、通勤時間が短く子育てしながら就労できる労働条件の職場を見つけやすい、近隣に頼れる人がいるといった地域的条件が、子育てに有利な条件になりますが、労働条件の改善や、児童手当や教育費の無償化、保育所の充実と安い保育料の普及など、社会的条件が改善されると、地域的条件に頼らずとも、子育ての見通しが立つようになり、地理的条件の価値は低下します。

 従って、四条畷市が他市とあまり変わらない水準となったのは、社会条件の改善によって、地域的条件のもつ経済的優位性が小さくなったことの反映なのかもしれません。

 しかし、何も産業がない四条畷で、子育て上の優位性が後退すれば、人口流出を招きかねません。四条畷市にとって、子育て世代に魅力あるコミュニティづくりが課題なのではないでしょうか。

3、北河内各市の就業構造からみた都市の特徴と人口変動要因

 経済的社会的変化は、産業構造とその雇用力、就業者が市民か市外の住民かといった経済的特徴に応じて、都市に異なる影響をもたらし、これが子育て世代の都市選択にも影響を与えると考えられます。そこで、本節では、産業構成・就業率・人口とその変化の検討を通じて北河内各都市の特徴と、この特徴が子育て世代の地域選択に持つ意味について検討します。 

 

 次の表は、各市における就業者のその市の人口に対する比率と産業別構成比、及びその変化、産業部門別の非正規比率を調べたものです(従業者数とその産業構成の資料は事業所統計調査2001年と経済センサス2014年、人口の資料は国勢調査2000年と2015年によっている。)。就業者の産業別構成比の表の黄色いマーカーは、他市に比べて相対的に構成比が高い産業を示しています。

​表3 北河内各市の人口増減と就業率の変化

​表4 北河内各市の産業別就業者の構成比の変化

​表5 2001年の各市の全従業者数を基準とした、2014年の産業別就業者の増減率

​表6 

〇四条畷市と交野市

 表3で見るように就業者の比率が低く、この地で子育てして他市で働く住民が多い都市です。そこでここではベッドタウン型都市と呼びます。

 市内就業者の構成を見ると、四条畷市では、商業、教育研究、医療・福祉・複合サービスの比率が高く、交野市では研究教育の比率が高くなっています。

 ベッドタウン型都市は、子育てなど家族生活を豊かに営むために、通勤の便があり環境が良く学校が近いことで選択される都市なので、図1のように若年層比率が高いという特徴を持っています。産業面では、教育や研究への志向が強いようです。

 四条畷で2007年の小学校廃止の影響が子育て世代に集中して純粋な形で出ているのは、市のベッドタウン型都市の特徴にもよると考えられます。

〇寝屋川市と枚方市

 人口規模が大きく、就業比率はそれほど高くないものの、商業、サービス販売業、医療福祉複合サービス業など、生活関連サービス産業が発達しています。そこで、ここでは生活サービス型都市と呼びます。

 ベッドタウンとしての都市も、一定の規模を持つと、都市市民を対象にした生活関連サービス産業が発展し、市民に就業の場を提供できるようになります。表6で見るように、この分野の産業は非正規比率が高いので、両市の非正規比率はかなり高くなっています。

 ところで、寝屋川市では、枚方市よりも、表4で見るように、ものづくり部門の縮小による就労の場の縮小の影響が大きく、枚方市の医療・福祉・複合サービス産業のように雇用を吸収する産業が発達しなかったため、表3で見るように人口が減少しました。これに対して、市が学校統廃合で対応したため子育て条件も悪化し、2000年から2010年にかけての子育て世代の流出を加速したのです。しかし、表2のとおり、学校統廃合ののち2010年から2015年にかけて子育て世代の増加がみられます。

 これは、2001年から2014年にかけて、生活関連サービスの比重が高まり、表3で見たように、生活関連サービス産業が増えたことで、枚方と同じような就業構造が実現し、女性が子育てしながら非正規で働く機会が増えたためではないかと考えられます。

 

〇守口市

 2001年には表3で見るように就業者の対人口比率が50%を超えています。これは、このころは他市からの就業者もかなりいたことを示しています。また、就業者のうちものづくり産業従事者は約40%を占めていました。このような都市を、ここではものづくり産業集積都市と呼ぶことにします。

 ところで、守口市では、表5で見るように、2001年から2014年にかけて、ものづくり産業を中心に就業人口が大幅に減少しました。これは、ナショナル・サンヨーなど地域の事業所への発注元であった大企業の事業活動の縮小によるものです。これに対して、市は、表1で示したように学校統廃合をすすめつつ、その跡地を売却して住宅開発を促進し生活サービス型都市への転換を図りました。しかし、表3で示した就業機会の減少に加えて学校統廃合を進めたため、子育て世代の社会移動が促進され、表2に示すように子育て世代を大きく減少させています。

 この間、産業構造面では、表4で示すように、教育研究や、医療福祉複合関連サービス部門の比重が高まり、就業者の産業別構成比率も表3に示すように非正規比率が大幅に増え寝屋川などとあまり変わらないものになって、ものづくり産業集積都市から生活サービス都市に変貌を遂げています。

 

〇門真市

 表3、表4で示すように、2001年において、就業者比率が市の人口の60%近くに達し、産業部門別就業者ではものづくり産業従事者が4割を超える、ものづくり産業集積都市です。 

 そして、表5で見るように、守口市とは異なり、2001年から2014年にかけてのナショナル・サンヨーなど大企業とその下請けを中心とする産業の縮小は小幅に止まっています。しかし、表2で見るように、学校統廃合で子育て世代の流出が加速され、人口は大幅に減少しました。この結果、表3表4で示すように、市内産業従事者の対人口比率が高まり、正規雇用比率も維持される一方で、医療福祉複合サービスなどの居住者サービス従事者の比率は低いものにとどまりました。門真市では、市外居住者に就労の場を提供することを含めて、産業重視の政策がとられたといえるでしょう。

 

〇大東市

 ものづくりの中小企業が集積しており、表3、表4で示すように、2001年において、市内就業者の対人口比率が46%に上り、産業部門別就業者ではものづくり産業従事者が4割を超える、ものづくり産業集積都市でした。しかし、表5で示すように、海外との厳しい競争でものづくり産業が緩やかに縮小している一方、医療福祉複合サービスなどの居住者サービス従事者の比率は低くとどまっています。この下で、表2に示すように、2000年以降の子育て世代の市外流出が続き、2011年から学校統廃合が行われましたが、これは2010年以降の子育て世代の流出を加速することになりました。

 この結果、2015年時点の産業別就業者数の構成比は、ほぼ門真市と同じになっています。ただ、表3で示すように、2015年の市内就業者の対人口比率は44%で、門真市の61%とはかなり異なっており、大東市が、居住者によって支えられる中小企業の町であることを維持しつつ、ものづくり産業の縮小に対応したものづくり産業集積都市を目指していることを示しています。

〇まとめ

 以上の検討によれば、四条畷市以外で学校統廃合を行った北河内の寝屋川市、守口市、大東市、門真市の産業構成の関わる課題は、ものづくり産業の縮小がもたらす人口縮小に対して都市構造を再編することであり、その転換方向は寝屋川市と守口市は住宅サービス都市、大東市と門真市はものづくり産業集積都市を維持しつつ規模を縮小することであったといえます。従って、学校統廃合という選択は、歳入に応じて歳出規模を縮小するために、やむを得ずとられた措置であったと考えられます。

 もっとも、この間の学校統廃合は、小規模校の解消という名目がとられていることが多く、ものづくり産業の縮小による影響がないベッドタウンである四条畷市の場合は、この名目にとらわれた無用の学校統廃合であったと思われます。

また、学校統廃合を行った各市とも、財政的理由があったにせよ、学校統廃合という施策は、が住民の教育にかかわる権利を奪い、子育て世代の市外流出を招いたり、住民の結婚や出産を抑制する結果を招く結果、歳入も縮小させるという意識に欠けていたと思われます。

 もしこの認識があり、インフラ長寿命化基本計画による国の支援が定まっていれば、学校を統廃合せずに学校施設の長寿命化を図り、財政負担を軽減しつつ、子育て世代の流出を防ぐという選択の検討が不可欠だったのではないでしょうか。

4、背景にある北河内各市の少子高齢化に対し真に求められている対策

 出生率の低下と団塊第1の世代の高齢化が、急激な人口構造の高齢化を引き起こしています。

 この出生率の低下は、2000年代に入って、非正規で低賃金の雇用形態が広がり、青年ことに男性が将来の見通しをたてられなくなって団塊第2世代に未婚が広がったことよるもので、これが団塊第3世代を消滅させたといわれています。

これに加えて、国内産業の海外移転が続く下で、地方では若者の首都圏への流出が続いており、これを止めるために、地方で若者が暮らし続けられる地域づくりも重要な課題となっています。

 実態を知るために、北河内各都市の年齢別人口の推移を見たのが図3-1、図3-2、図3-3です。

 この図からは、多くの市町村で団塊第3世代が消滅していることが見て取れます。

しかし、出生率がほとんど低下しなかった四条畷市では、団塊第3世代の存在が認められます。地域が持つ環境も出生率に作用することがわかります。

 

 また、表7で、15歳から24歳までの青年の居住地移動を見ると、次に述べるように、就業の場の縮小が各市の青年にもたらしている影響が見えてきます。求められているのは、子育て世代や労働力の追い出しでなく、新たな価値を生む力に変える産業おこしです。

 

<表7に見る、各都市の青年の居住地移動への状況>

 ベッドタウン型都市と生活サービス型都市について青年の居住地移動を見ると、15から19歳での市外流出が多いのは交野市で、下宿目的と思われます。これに対して20歳から24歳の就職のための居住地移動は、枚方市で高い比率を示し、交野市でも次第に比率が高まっています。一方、四条畷市と寝屋川市では市外流出の傾向は弱まっています。

これは、産業の雇用吸収力が低下する下で、四条畷市と寝屋川市の青年が大阪市内や周辺都市に就職先を見つけることができているのに対し、交野市と枚方市の青年は、通勤の負担も考えて親元からの通勤にこだわらない選択をしているのではないかと思われます。

 ものづくり産業集積都市の青年の居住地移動の動向をみると、中小企業中心の大東市では、それまでの15から19歳の青年層の流入が2015年に至りゼロとなり、20から24歳では、地元就労の減少で一定水準で市外への居住地移動が続いています。

 守口市や門真市では、市内事業所の雇用量はその年の景気変動に大きく左右されており、青年の居住地もこの動向に左右されているようです。

​表7 青年の人口構成比率の変動

​図3-1 ベッドタウン型都市の年齢別人口構成の変化

​図3-2 生活サービス型都市の年齢別人口構成の変化

​図3-3 ものづくり産業集積都市の年齢別人口構成の変化

bottom of page